26 3月

翠の窓vol.116 : 川瀬敏郎『一日一花』

 

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その本は、いつも行っている書店の見慣れた棚に、表紙をこちらに向けて置かれていました。川瀬敏郎の名と書名に引かれて何気なく手にすると、厚さ2センチ以上もあるその本はずっしりとした手応えです。

何気なく開いたページの右と左にそれぞれ一輪の山野草。茶色を含んだグレーの壁を背にシンプルに生けられた草花の端正な美しさに、思いがけず胸をつかれました。他のページをめくると、そこにも同様のシチュエーションで、右と左に一輪ずつの草花が配置されています。それぞれに日付がついていて、なるほど1年366日分の草花が載っていることがわかりました。

これは相当に見応えのあるものだという直観と、川瀬敏郎さんに間違いはないという思いで、迷わず買って帰りました。私より草花好きの家人の方が喜びそうだと思った通り、さっそくこの花この草とページをめくり虜になっているようです。

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しばらくしてあとがきを読み、この『一日一花』が、東日本大震災直後は花を手にすることができずにいた川瀬さんが、被災地で花をながめる人々の無心の笑顔にふれて「生者死者にかかわらず毎日だれかのために、この国のたましいの記憶である草木花をたてまつり、届けたいと願って」始められたものだということを知りました。また、川瀬さんは『一日一花』を花による曼荼羅と思い描き、あらゆる花を手向けたいとの心願があったと書いています。

書店で何気なくページを開いたときに感じたしんとしたたたずまいは、川瀬さんのこんな思いを如実に伝えてくれていたのでしょう。

それにしても、一つ一つの草花の姿・形・色の何と美しいことでしょうか、何と豊かなことでしょうか。このような山野草の多くを身近に見られる里山暮らしの豊かさにもあらためて気づかされます。

(Y)

2013・3・26

15 3月

翠の窓vol.115 : 春がきている

 

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風が変わった・・・と感じたのは、幾日前のことだったでしょうか。

厳しい冷たさだけではなく、かすかにふんわりと暖かなものが混じっているように感じられたあの日から、春が足早にやってきたようです。

早朝、家人に起こされて外に出ると、もう身を刺すような冷たさはないけれど、残り雪がかろうじて「かた雪」になっていました。この冬最後の「かた雪」を歩こうというわけです。

鳥海山の頂上付近は薄いグレーの雲がおおいかぶさっていますが、ひと所ぽっかりと雲の切れ間があって、そこに朝日のオレンジ色の光がもれて日の出の近さを感じさせます。オレンジ色の光は、雲の間に間に見る見る空高く広がっていきました。

かた雪の田んぼを横切っていくと、小さな足跡が幾つもどこかを目指して進んでいっている様子が見られました。ウサギかタヌキかイタチのようなものでしょうか、きっと夜のうちにつけられた足跡なのでしょう。そんな小動物の行き交いを見ることができたら、どんなに面白いことかと思います。

田んぼ脇の小川は雪解け水を含んだ澄んだ水を運び、淵の雪はいち早く解けて、枯れ葉色の地面の中に若草色のばっけが幾つも顔を出しています。まだ小さくころんとしたばっけを3つポケットに入れて、確かな春の足取りにほっとする気分でかた雪散歩からもどりました。朝ご飯の味噌汁の仕上げに、ばっけをかるく刻んで落とすと、ぱっと香りが立ちました。

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春の香りです。

いつの間にか鳥海山の雲が遠のいて青空が広がり、まぶしい朝日に鳥海山の雪も田んぼの残雪もきらきら輝いています。今日は、久し振りの晴天になりそうです。  (Y)

2013.3.15