29 1月

 川瀬敏郎『一日一花』

                      翠の窓vol.116

  川瀬敏郎『一日一花』       

 

 その本は、いつも行っている書店の見慣れた棚に、表紙をこちらに向けて置かれていました。川瀬敏郎の名と書名に引かれて何気なく手にすると、厚さ2センチ以上もあるその本はずっしりとした手応えです。

 何気なく開いたページの右と左にそれぞれ一輪の山野草。茶色を含んだグレーの壁を背にシンプルに生けられた草花の端正な美しさに、思いがけず胸をつかれました。他のページをめくると、そこにも同様のシチュエーションで、右と左に一輪ずつの草花が配置されています。それぞれに日付がついていて、なるほど1年366日分の草花が載っていることがわかりました。

 これは相当に見応えのあるものだという直観と、川瀬敏郎さんに間違いはないという思いで、迷わず買って帰りました。私より草花好きの家人の方が喜びそうだと思った通り、さっそくこの花この草とページをめくり虜になっているようです。

 しばらくしてあとがきを読み、この『一日一花』が、東日本大震災直後は花を手にすることができずにいた川瀬さんが、被災地で花をながめる人々の無心の笑顔にふれて「生者死者にかかわらず毎日だれかのために、この国のたましいの記憶である草木花をたてまつり、届けたいと願って」始められたものだということを知りました。また、川瀬さんは『一日一花』を花による曼荼羅と思い描き、あらゆる花を手向けたいとの心願があったと書いています。

 書店で何気なくページを開いたときに感じたしんとしたたたずまいは、川瀬さんのこんな思いを如実に伝えてくれていたのでしょう。

 それにしても、一つ一つの草花の姿・形・色の何と美しいことでしょうか、何と豊かなことでしょうか。このような山野草の多くを身近に見られる里山暮らしの豊かさにもあらためて気づかされます。

 (Y)

2013・3・26

29 1月

おいしい器『色絵染附花文四方皿』おつまみをのせて

翠の窓vol.113

おいしい器『色絵染附花文四方皿』

おつまみをのせて

この頃ちょっと気に入っているおつまみがあります。

とにかく速い、ということは簡単、そしておいしいのだから言うことなし!のレシピを見つけたのです。

「クリームチーズの上にかつお節ときざんだねぎをのせ、しょうゆを数滴かける」というのが全レシピ。その名も『クリームチーズの冷ややっこ風』。

 ちょっと味が想像できない?・・・かもしれませんが、これがなかなか、洋と和の絶妙な取り合わせが口の中で何の違和感もなく、思わず「おいしい」と一口で虜になってしまいました。お酒の味については門外漢ですが、日本酒にビールに、白ワインや流行のハイボールとやらにも合いそうです。

 器は何にしようかと考えて、四角いクリームチーズの形に合わせて、正木春蔵さんの『色絵染附花文四方皿』にのせてみました。小さめの四方皿というのは割りと珍しく、その絵柄の雰囲気からお菓子や果物の取り皿に似合って使ってきましたけど、こんな洒落たおつまみにもぴったり合ってくれました。

 クリームチーズはめったに使うことはないのですが、キリのクリームチーズは、スーパーでよく見かけますし、ちょうどいい大きさの個装になっているのが便利なので、冷蔵庫の常備品になっています。

 ふいのお客様にも、この速攻性と意外性がお役に立ちそうです。簡単でシンプルだからこそ、器はおろそかにしないでお洒落にお出ししてみるといいのではないかしら。

 (Y)                             

2013.1.26

04 1月

器を楽しむ

                       翠の窓vol.190

器を楽しむ

明けましておめでとうございます。

 

雲がたちこめて、期待の初日の出を拝むことはできませんでしたが、天候は落ちついて、穏やかな年明けとなりました。

皆様には、希望に満ちた佳い年を迎えられ、ご家族で、帰省の方やお知り合いの方々と共に、お正月の膳を囲まれていらっしゃることでしょう。

我が家では、ここ数年年末に近くなると、おせちは作らなくていいことにしようかと話したりしますが、神奈川の知人が、年末には決まって、小田原のおいしい蒲鉾や伊達巻を送ってくださるので、今年もそれに励まされて、黒豆、栗きんとん、なます、筑前煮位を作って、形ばかりのおせちを整えました。

毎年、Suiで扱っている作家の器に盛り付けているのですが、今年使ってみようと心づもりしていたのは、ハービーヤングさんの「飴釉大長皿」です。一昨年、ハービーさんの遺作展で求めた「飴釉大長皿」は、その造形、色、大きさも素晴らしく、一目ぼれした作品です。大きく存在感があり、大家族やお集まりのときなど、大皿料理を盛り付けたら、どんなに映えることだろうと、あれこれ盛り付けてみたい料理を想定していました。

出来上がった料理に合わせて器を選ぶというのが大方のところでしょうが、器が先にあって、それに合う料理を何にしようかと思案する、料理心をかきたてる器というものも少なくありません。ハービーさんの「飴釉大長皿」は、正にそんな器の一つです。

この皿には、板そばの感覚で、蕎麦を盛り付けたら、皿の飴色と蕎麦の色が互いを引き立てて、どんなにか美味しそうに見映えがすることでしょう。薬味のネギも脇に添えたら、ネギの白や緑が、全体の色合いを一層引き立ててくれること請け合いです。

他にも・・・と、アイデアがいろいろ沸いてくるこのような器が手元にあることで、食卓が、食生活が豊かになっていくことは、日々の暮らしの大きな楽しみ・喜びと言えましょう。

Suiの器コーナーでは、今年も、皆様の暮らしに彩りと豊かさをもたらす器を提示していけるよう心がけていきたいと思います。あなたのお気に入りを見つけていただけたらとてもうれしいです。(Y)

2019.1.2

 

益子で作陶していたハービーさんは、東日本大震災後に体調 を崩して亡くなられました。Suiではオープン以来、モーニングカップや皿など展示しており、人気がありました。

03 1月

カタクリの花の群生に出会うカタクリの花の群生に出会う

                       翠の窓vol.152

カタクリの花の群生に出会う                

 

 用事があって秋田市に出かけた帰り、久しぶりに角館に回ることにしました。

 武家屋敷のしだれ桜は、あちこちに少しずつ開花しているところがあって、小さなお花見ができました。

 思い立って、知人のSさんの店を訪ねると、折よく店に出ていたSさんから、「桜には早かったけど、カタクリの花を見に行きませんか」との思いがけないお誘い。車で15分ほど山に入ったFさん宅のすぐ裏手の山に案内されて、唖然!! 広い斜面一面がちょうど陽が当たっていて、濃いピンク色の花におおわれているではありませんか。こんなに群生しているとは・・・

 かねてから見たい見たいと願っていながら(特に家人は)、なかなかその機会に巡り合えなかったカタクリの群生にあっけなく出会えた瞬間です。その眺めはすごい!としか言いようがありません。

 日陰になっている向かい側のこれまた広い斜面一面にも、群生は広がっていて、陽が当たるとそれは見事な眺めになるのだそうです。

 それのみならず、少し先の山にも同じく群生している所があると聞いて、車で数分移動すると、まだ雪が少し残っている山道の先に、数本の栗の木がある山の斜面にカタクリの花が点在していました。時期が来ると、この一面もピンク色に染まるのだそうです。どの山も下草が刈られ、きれいに整備されているのはFさんご夫妻の並々ならぬ手入れの賜物であり、それあってこそ、この見事な群生が現出しているのでしょう。

 角館に立ち寄ったこと。Sさんに出会えたこと。Sさんがカタクリの群生を見に行こうと誘ってくれたこと。雨の予報がはずれ陽がさす時間に山に行けたこと・・・

全てがうまく巡り巡って、永年見たいと願っていたカタクリの群生についに出会えたのでした。

不思議な気分で、家人は「度肝を抜かれた」と興奮覚めやらず帰途につきました。めでたし めでたし。   ()

2015・4・15