07 12月

「遊佐」賛歌

翠の窓 vol.164

「遊佐」賛歌        

 

九谷青窯(石川県小松市)に出向くため、期せずして初めて北陸新幹線に乗る機会を得ました。落ち着いた錆朱色のシート、枕を上下できたり、コンセントが配置されていたり、新しい仕様が見られました。                   

座席ポケットには、これはおなじみのJR東日本の情報誌「トランベール」4月号が入っていて、その巻頭に、沢木耕太郎さんの「夢の旅」というエッセイが載っていました。その中盤に「私はある小説を書いていて、重要登場人物の出身地をどこにしようかと考えながら日本地図を眺めていた。」という一節があって、あっ、これは今朝日新聞に連載中の『春に散る』のことだなと思いつつ読み進めると、

「 遊佐 」

という文字が、前後1行ずつを空白にしてきわだたせて書かれているではありませんか。なんと、我が町遊佐です! 地図を眺めていて、ふっと目に留まった地名が「遊佐」だったのだそうです。

 沢木さんが、その理由のひとつとして、

「何と言ってもその字の美しいことである。軽やかで楽しげでスマートだ。」と書いている一文には、思わず目がパチッとして、何度も読み返し、我が意を得たり、とてもうれしくなりました。

 高畠町の星寛治さん(農民詩人)が、かつて遊佐のことを「庄内の美しいハート遊佐町」と詠まれたということとも相通じる遊佐賛歌と言えるのではないでしょうか。

『春に散る』の登場人物の一人の出身地を遊佐と決めた後で、沢木さんは、遊佐がどんな町なのか気になりはじめ、昨春遊佐を訪れ、周辺の風光明媚な様、特に「朝日を浴びた鳥海山が、田植え直後の田圃の水に映っていたこと」に強く心動かされたと書かれています。

 金沢に向かう車中で何気なく手にした冊子で目にすることができたこのエッセイは、とてもうれしい贈り物でした。

 毎朝、まずは朝日新聞の『春に散る』を読むことを日課にしている家人もきっと喜ぶことだろうと「トランベール」を何よりのおみやげに、カバンに大事にしまいました。

                               (Y)                       2016.4.6