08 7月

アジサイと螢の季節

                         翠の窓vol.212

アジサイと螢の季節

昨日は、「そろそろアジサイがきれいかと思って来ました。」という二人連れの方が来店され、今日は、「アジサイは咲いていますか。」という電話での問い合わせを受けました。

Suiのアジサイを心に留めてくれているお客様が少なからずいらっしゃるようで嬉しいです。

十分な雨(水)にも恵まれて、庭周辺のアジサイが生き生きと花を咲かせて、正に見ごろを迎えています。

15年前には、店横の川の淵に白い花のアジサイが1株あっただけでしたが、家人が、毎年品種を変えて鉢植えを求めて植え替えたり、挿し木をして育てたりして、今や種類も株数も相当な数になり、たわわに花を咲かせるようになっています。

私たちが特に気に入っているのは、「フェアリーアイ」という品種です。花びらの重なりが美しい、発色がきれい、丈夫で扱いやすく、切り花にしても長もちする、秋色への変化が多様で美しく、秋口まで飽きずに楽しめる・・・と、出色の特質をもつので、この品種が株数として一番多くなっています。

アジサイの季節は、また螢の飛び交う季節でもあります。6月中旬になると、山に向かう畦道の脇の小さな流れにそって、少し大きめの源氏螢が飛び始めます。今年は、夜の気温が低く、ゆらゆらと飛び交う数はあまり多くありませんでしたが、7月に入って、店の横の沢に平家螢らしい姿が見られるようになりました。

夕食後、8時半ごろから夕涼みがてら暗闇の中にくり出します。目にする螢の数はその時々、タイミングがあるようです。

ここに住み始めた頃、数十匹の螢が一斉にフワーッと浮かび上がった幻想的な瞬間に立ち合ったことがあります。同じ日でも、その瞬間に居合わせなければ知らずにいた光景だったことでしょう。

そんな瞬間を、心の片すみで小さく期待しながらの毎夜の蛍狩りです。

今夜は七夕、地には螢、天には星のショーに立ち合うことができるでしょうか。(弓) 2022.7.7

30 5月

秋田杉のプレートに出会う

                         翠の窓vol.211

秋田杉のプレートに出会う


早朝から夏を思わせる陽ざしの中、7号線を日本海沿いに北へ。

道路の両側には、満開のアカシアの木が次々に現れ、開けた窓から、初夏の風にのって入ってくるアカシアの花の香りが、車内を通り抜けていきます。

この日の目的地は、五城目町の「佐藤木材容器」さんです。

現在は、3代目となる佐藤友亮さんが『KAⅭOMI』と名付けたシリーズ展開で、秋田杉のプレート(木皿)を製作しています。

4・5年前、ある雑誌で、大小さまざまの秋田杉のプレートについての記事を見たことがありました。秋田杉というからには、秋田の方が作っているのではと思いつつ、とても気になり心に残っていたのですが、数日前、たまたま、佐藤友亮さんという方が秋田杉のプレートを作っているという内容のTV番組を目にしたので、さっそく連絡をとり訪問が実現したというわけです。

作業場の隣に建つ工房で初めて手にしたプレートは、きれいに磨き出された木目がとても美しく、一つとして同じものがない自然の造形に目を奪われました。

5寸(150mm)の小皿から、2尺5寸(750mm)の大皿まで、圧巻のKAⅭOMIシリーズのプレートは、いずれも軽く、柔らかい優しい手ざわりです。

しかし、この軽く柔らかい秋田杉の特性は、それを皿にするには、大変な手間がかかることなのだと思われます。

まずは、使用感を知りたく、翌朝、朝食を9寸皿を用いてワンプレートにセットしてみました。ご飯、目玉焼き、鮭塩焼、小松菜のおひたしというありふれたものながら、白木のプレートにおさまった姿は、優し気でおいしそうです。

ガラス塗装してありますので、醤油がかかったり、油分が広がったりしても差しつかえありません。

佐藤さんの家族が数年使ってきたという7寸皿は、少し飴色に変化した様が、当初の白木の状態とは違う美しさに変容していて、使いこんでいく楽しみを感じさせました。

どうぞ手にとって、秋田杉の香り、軽さ、肌触りの良さを味わってみてください。そこに盛り付けたいお料理が浮かんでくるようでしたら、うれしいです。 (弓) 2022.5.27

18 5月

みどりの日に

翠の窓 vol.210

「みどりの日」に

お客様が1組帰られ、器を片付けていると、隣の席から、

「今日はかあさんの日だから」と言う男性の声が聞こえてきました。

あら、母の日かしら? それとも誕生日? と、ちょっと気になるお客

様は、30代位の男性と、そのお母様らしき女性の二人連れの方々です。

女性の方は、窓の外に広がる眺めに驚いたように見惚れています。

途中、家人が、外で写真を撮りましょうとお誘いして伺ったところ、息子

さんが、お母様の喜寿のお祝いの旅行をセッティング。前日温海温泉

に一泊し、今日Suiまで足をのばしてくださったとのこと。

旅行先を温海温泉「萬国屋」にしたのは、小さい時に連れてきてもらったことがあり、幼な心に忘れら

れない家族との楽しい思い出の地なので選ばれたとか。息子さんの優しい気遣いに、素敵な親子関

係を築かれてきたことが想われ、よいお話を聞かせてもらったなと思いました。

その後も楽し気に過ごしている様子に、つい目がいって、Suiが今この時のお二人の幸せな時間の場

なっていることが、とてもうれしく思われました。

その後に、年配のご夫婦と若いご夫婦、1歳くらい

の女の子の三世代5名のお客様が来店されました。

「この子も翠という名前なんです。」と抱っこしている

お父さんに言われびっくり!

そして、若いお父さんが、

「これ、ぼくが使っているんです。」

と、ポケットから取り出した車のキーに付いていたキーホル

ダーを見て、またびっくり!なんと、Sui2周年記念にお客様にお配りした四角い木のキーホルダーなのです。

 年配の男性が、「ぼくがもらったのを、息子に譲ったんですよ」とにこにこ。

 10年も前にお配りしたものを、こうして世代を越えて大事に使っていただいているなんて、本当に思いがけ

ないことで、大感激してしまいました。

みどりの日。

連休の終盤にさしかかり、多少の疲れも感じていたとき、思いがけず、ほっと心和ませていただいたお客様と

の出会いでした。 (弓) 2022.5.4

22 4月

鈴木美枝子 洋画・日本画作品展

翠の窓vol.209

鈴木美枝子 洋画・日本画作品展

4月。

あんなに降り続き降り積もった雪が、あっけなく消え去って山里は、すっかり春仕様です。

鳥海山の厚く真っ白な積雪も、日に日に薄くなって、種蒔きじいさんがその姿を現し始め、軽トラや耕運機などの動きも見られるようになってきました。

種蒔きじいさんは、Suiにとっては、新しい周年の始まりが近いことを知らせてくれるシンボルでもあります。4月26日より14年目に入る今春は、鈴木美枝子さんの洋画・日本画作品展で幕開けです。

昨日は、搬入された作品の梱包を解き、展示作業をしました。洋画・日本画の、大きさも色合いも様々な作品を、限られたスペースながら、壁面に収めていくのは、とても楽しい作業です。全ての作品が、その場所を待っていたかのようにピタッと収まると、店内が一挙に精気を取りもどしたかのように感じられました。

鈴木さんの展示会は、2017年に続き2回目(休業により昨年開催の予定が延びていました)になりますが、今回も洋画・日本画をまじえて14点の作品を展示しています。

鈴木さんは、本格的に制作を始めて40年余りになり、県美展、一水会展などで、毎年のように受賞を重ねてこられました。(現在、県美術連盟幹事・一水会展会友)

本年度も、日本画で「山形新聞社賞」を受けており、その作品『追憶』も、今回の作品展でご覧いただけます。

春の気配は、日に日に広がり深まりを見せています。

ギャラリーの絵画鑑賞の後に、田園の散策はいかがでしょうか。鳥海山を眺めながらの畦道散歩で、気分も体調もリフレッシュしてお帰りください。

(弓) 2022.4.1

※ 会期 2022.4.10(日) ~ 5.10(火)

※ 『鈴木美枝子のやまがたスケッチ散歩』

山形新聞にて(隔週火曜日)、身近な風物を描き下ろした絵とエッセーを連載中です。

合わせてご覧ください。

  

13 3月

『風の詩』が第一歩

翠の窓vol.208

『風の詩』が第一歩

 

翠の窓vol.207「金継ぎでよみがえる」を読んでいただいて、何通かお手紙をいただきました。

金継ぎをした岡伸一さんのポットについてと並んで、お茶うけに銀座「ウエスト」の焼菓子を用意したことに関心を寄せてのお手紙もあり、「ウエスト」の人気が広がっていることが感じられました。

横浜に住んでいた頃は、しばしば高島屋内の売り場に寄り、大好きな焼菓子を求めていましたが、ショーウィンドウの上に置かれている『風の詩』というリーフレットを手に入れるのも楽しみにしていました。『風の詩』は、「ウエスト」が、顧客から散文、随筆などの小品を募集し、リーフレットにして店頭に置いているものでした。

横浜では、仕事がらみの文章はしょっちゅう書いていたものの、随筆などを書くことは少なかったのですが、『風の詩』を知って、初めて応募した文章が、思いがけずすぐに採用されました。リーフレットになって「ウエスト」の店頭に置かれたのは望外の喜びで、日々の暮らしの一片を切りとり文章にしていく楽しさを知りました。その後、2度か3度『風の詩』に掲載していただいたように思います。

思えば、『風の詩』に採用されたこの経験が、Suiをオープンするにあたって、「翠の窓」を書いていこうという発想につながっていったのでした。書きたいときに書くという気まぐれな「翠の窓」も、細々と続いて208号。Suiに来店したら、まずこれを読むというお客様には、気まぐれにお付き合いいただいて本当にありがとうございます。

さて、「ウエスト」の『風の詩』は、今も続いていて、この2月末で3811号(昭和22年のウエスト創業時より続いている)になったそうです。沢山の「ウエスト」のファンが、『風の詩』のファンが、何より「ウエスト」の真摯で実直な思いが支えてきた賜物でしょう。 (弓) 

2022・3・7

  

30 1月

金継ぎでよみがえる

翠の窓vol.207

    金継ぎでよみがえる

昨年、金継ぎを依頼していたポットが、手

元に戻ってきました。

岡伸一さんの白磁のポットです。岡伸一

さんを知ったのは、もう20年もこと。少し前の

青味を帯びた独特の色合い、エッジの利い

たシャープなデザインが気に入って、形のち

がうポットをもう1客、片口の中鉢、小皿と買

い求め、その後も増やしていくのを楽しみにし

ていました。

ところが、Suiをオープンするにあたり、店にも置かせてもらおうと心づもりしていた矢先、残念な

ことに、体調をくずし作陶をやめたと知りました。

もう二度と手に入れることができないということもあり、大事に扱っていたつもりが、洗った後何かの

はずみで注ぎ口の先を欠いてしまっていたのでした。悔やんでも後の祭り・・・ が、しばらくして、運よ

く金継ぎをしてくれる方を紹介していただくことができ、仕上がりを待ちわびていたというわけです。

欠けた注ぎ口は、ぴったりと継がれ、光沢のある金で装飾して、とても丁寧にきれいに仕上

がっていました。欠いたことを悔やんでいた気持ちが、すうっと解かれていくようでした。

さて、今日のお茶の時間

には、金継ぎでよみがえった

お気に入りのポットに、いつも

のおいしい煎茶を用意して、

湯飲みは、これもこの頃お気

に入りの正木春蔵さんの

牡丹文筒を、塗りのお盆に

セットしてみました。お茶受け

のお菓子は、銀座ウエストの

焼き菓子ヴィクトリアで、しみ

じみおいしい時間を過ごすこ

とができました。

金継ぎという日本の素晴ら

しい美意識がもたらした技術、

これからもちょくちょくお世話に

なることがありそうです。 (弓)

2022・1・10

31 12月

年末に

                          翠の窓vol.206

   

    年末に

 

2021年も残すところわずかとなりました。

今年のSuiの十大ニュースの筆頭は、「店の再開」となるのか、それに先立つ「長期休業継続」の方が思いもよらない出来事に遭遇した体験として上位 になるのか・・・

コロナにうつらないうつさないためには、接客を避けることがまずは最上の道だろうと判断しての休業は、1年半にも及びました。

その間、たくさんのお客様が、いろいろ声をかけてくださったり、店が開いてないかと何度も足を運んでくださったりということもあって、陰になり日向になり、気にかけていただいていることを絶えず感じていることができましたので、「そのうち、いつかは」という気持ちを切らすことはありませんでした。

加えて、目の前の美しい雄大な眺めが変わらずにあることが、私共の気持ちを根底で支えてくれていたのだろうと、あらためて思う日々です。

 

 さて、2022年の年明けは目前。

 毎年、新年には、その年の干支人形(京都伏見人形)を飾り、多少とも晴れやかに賑やかに、佳き日を祝ってきました。

 新年は寅年。今年は、京都「嵯峨面」の寅のお面を求めてみました。厄除けの縁起を担ぎつつ、2022年の十大ニュースには、コロナを忘れたかのような、明るいニュースが並ぶことを切に願ってやみません。

皆様、佳いお年をお迎えください。  

(弓) 

2021・12・29

18 12月

感動ふたたび

                        翠の窓vol.205

    感動ふたたび   

 

「実は結婚30周年で、記念で出かけ

ようと思った所が幾つかあったんです

が、鳥海山が大好きなので、やっぱり

Suiだなと思って来てみました。」

とは、埼玉ナンバー22-36(鳥海山標

高2236m)の車で来店されたご夫婦。

「Suiからの葉書で懐かしくなって、来て

しまいました。」

というご夫婦は、10年ほど前に来店した折に当店で求めたポストカードを自宅に飾っている写真をスマホで見せてくれました。

10月に店を再オープンして以来、このように「懐かしくなって数年ぶりに・・・」と言われるお客様が何組もあって、今この現象は何故か?といぶかしく思う程です。

かと思うと、

「ここは、いつからあるんですか。私はこの下の方に住んでいるんだけど、この店のことは全く知らなくて、こんないい所があったんですね。」

という地元遊佐在住の方には、こちらがびっくり。10数年も耳に入らなかった・・・とは、情報の伝わり方(伝わるも、伝わらないも)っておもしろいなぁと思ってしまいます。

 何年ぶりかで、あるいは初めてSuiを訪れたという、いずれの方々にも、目の前の鳥海山の美しい姿や田園が広がる眺めに感動している様子がうかがえ、この場所が強い印象を残した場であることがわかります。


 この景色を、15年近く朝から晩まで毎日見て暮らしてきた私共にとっても、さすがに見慣れた感はあるものの、日々思わず「すごいなぁ」「きれいだなぁ」と声を上げてしまう瞬間があるのです。

 

さて、ギャラリーでは、2年ぶりに安藤由紀子さんのリースを展示しています。昨年は休業中でしたので、2年ぶりにリースを見に来てくれたお客様が何人もいらっしゃいます。

私共にとっても、何かにつけ懐かしい出会いのある初冬の日々です。  (弓) 2021・12・10

18 12月

晩秋へ

                          翠の窓vol.204

    晩秋へ   

 

今年の鳥海山の紅葉は、例年になく見事だったと思われませんか。

紅葉の紅い帯が、頂から山裾へ向かって下りてくるのが例年のことですが、今年は頂のすぐ下から山裾まで、全面的に紅く染まった様を維持しており、紅い鳥海山を長く観ることができたのです。

雨風の影響が少なく、枯葉が落ちるのが少なかったのかもしれません。

 

昨日、神奈川の知人から、秋の味覚が届きました。

自宅の庭に実ったという、緑の枝葉付きの黄柚子がどっさり。作りたてお手製の柚子胡椒も一瓶入っていました。これこれ心待ちにしていた緑鮮やかな柚子胡椒です。

昨年、初めて作ってみたからと言って分けてくれた柚子胡椒が殊の外おいしくて、市販のものでは味わえない、フレッシュな香りと味わいに、たちまち虜になりました。

それを察して、今年は大きな瓶に入れてくれたのでしょう。

さっそく夕飯に、薄切りの牛肉を軽く焼いたのに大根おろしをたっぷりのせて、この柚子胡椒を添えていただきました。平凡なお惣菜が、おいしい大満足の一品になりました。

 

鳥海山の里は、いよいよ晩秋へ。

Sui周辺の紅葉も見頃です。柿、ラ・フランス、りんご、鮭・・・と、おいしいものも目白押し、秋をたっぷり味わい尽くしたい11月です。 )                 2021・11・11

30 7月

プレオープンへ

                          翠の窓vol.203

    プレ・オープン

5時をまわって、鳥海山の右裾から矢のように光が射してきました。

見る見るうちに、まばゆい光が広がって、朝日が雲をかき分けるように昇っていくと、影絵のように黒々としていた鳥海山の山襞が少しずつ現れてきます。

緑の田も、一気に精気を帯てくるかのようです。

「お客様は、ギャラリーをしているのですか?」

と、唐突に問われたのは、恵比須の美容院のスタッフから。

どうやら、Suiに関するブログを見て、住所が一致することに気付かれたようです。

「素敵な所ですね。行ってみたいです。」との思いがけない言葉にびっくり。店の再開を中半危ぶんでいるところに、グッと背中を押された気分になりました。

また、所用があって出かけた米沢で、気になっていた喫茶店に寄ったときのことです。

小さなギャラリーコーナーを設け、テーブル席が3つのこじんまりした室内は、とてもシンプルで、目につくコロナ対策は、入口に置かれた手指の消毒剤のみ。スタッフの、私共と同年代のご夫妻が、淡々ともの静かにお茶の準備をしています。

2組のお客様たちは、ゆっくりくつろいでいる様子。私たちも何の心配も感じず、お茶の時間を楽しむことができました。

こうして、お店は営業していけるんだなと、心強いエールを頂いた気分なりました。


休業に入って1年5か月、毎日再開の問い合わせや、期待の言葉をかけていただいて、やっと重い腰を上げてみようかと、エンジンをかけ始めています。

皆様のたくさんのあたたかい言葉、この状況下でも何一つ欠けることのない美しい自然に励まされ、Suiも少しずつ精気を取り戻していけたらいいなぁと思っています。 (Y) 2021. 8. 1

   ※ギャラリーで、石田典子さんの新作絵画を展示しています。

   ※森では、末宗美香子さんのインスタレーション展をしています。(海の日→山の日)