09 3月

春を待つ花

                       翠の窓vol.192

春を待つ花

 

「あれっ、造花じゃないの?」

「ナマ(生)だよ、ナマ!」

「へぇ、水入ってるもんね。」

などと話しているお客様の声が、窓辺から聞こえてきました。

窓辺のアイアンツリーに飾っている花は、「リューココリーネ」。淡い色、薄い花びらの可憐な様は、真冬の雪景色を背景にしていては、ちょっと場違いな感じなのかもしれません。

庭の花を摘めないこの時期、春を待つ初春一番の花は、毎年決まってこの「リューココリーネ」です。遊佐に来て間もなく、リューココリーネを栽培している農家のお嬢さんと知り合いました。お父さんと一緒に、改良を重ねて年々色や花びらの形なども様々に展開しているようです。

本来は、50~60㎝もの長く細い茎をもつ花なので、短く切っては持ち味を損なうことになりますが、Suiのアイアンツリーにはとても似合っています。私は、造花を飾る気は全くないので、この時期、Suiには無くてはならない貴重な花です。

先週は神奈川の知人から、そして昨日は横浜在住のお客様から、日本水仙が沢山届きました。どちらも、わざわざ庭の水仙を切って送ってくださって、大感激です。

おかげさまで、店内は初春の香りに満たされています。

もうしばらくすると、啓翁桜が出てきますので、

それも楽しみにしています。啓翁桜も、遊佐町で手広く栽培している農家があり、しばらくの間、直接分けていただくことができます。

ピンクの小さな蕾の時期から満開の時期はもちろんのこと、花の終わった後の若緑の葉桜の様子もきれいで、長い期間を楽しむことができます。

こうしてSuiの店内では、1月3月には、一足も二足も早く、春を先どる花を飾れるように心がけています。

新年も間もなく2月。2月の声を聞けば、もう春はすぐそこ、春を待つ心にも弾みがつきますね。

(Y)  2019.1.20

09 2月

日々の「暮らし」を楽しくしてくれるもの

                       翠の窓vol.191

日々の「暮らし」を楽しくしてくれるもの

 

立春の声を聞いたら本当に春めいて、一気に雪が消え、お天気も落ち着いているので、今日の定休日は、ちょっと外出したい気分になりました。

道路には全く雪はなく、すっかり乾いて、この季節には珍しいドライブ日和。新庄に向かう最上川沿いの道は、いつもなら気の進まない雪道なのに、今日は、穏やかな川の流れや、向こう岸の墨絵の様な山々の眺めを楽しみながら走ることができました。

目的地にしたのは、寒河江の「GEA」(ギア)。佐藤繊維が経営しているインテリアショップで、県内外の作家の器、ガラス製品、家具、雑貨などの日用品の類がいろいろ置いてあって、特に目的はなくても、目には楽しい空間なので、山形方面に用事のあるときは時々訪れています。

その度に、何かしらの目新しい商品や情報に出会えるのを楽しみにしているのですが、今日は、ガラスのキャニスターにひかれるものがありました。

直径10cm、高さ18cm位の円筒形、危う気のないほどよい厚みのガラスで、玉ねぎのように丸いふたのデザインもユニーク、本体の口と触れ合うところが珍しくすりガラスになっていて、密閉性もありそうです。何を入れようかと思いを巡らすのも楽しく、迷わず購入しました。

家に戻り、キッチンの窓辺に置いて、まずは長年常備しているお気に入りの梅干を入れてみました。ガラスの透明感とおいしそうな梅の赤色が互いを引き立てるように見栄えがして、思った以上の名コンビ、キッチンに近づくたびに目がいってしまいます。

人生の日々の楽しみは、人それぞれでしょうが、私にとっては、今日のキャニスターのように、若い頃からずっと長い間、「暮らし」にまつわるものものによって、あたり前に過ごしている日々に、彩りとわくわくする気分を与えてもらってきたように思います。

これからも、日々の「暮らし」を楽しくしてくれるものにアンテナをはっていこうと思います。

あなたにとって、日々を楽しむ術はなんでしょうか。    

(Y)

2019.2.6

 

                   「啓翁桜」

29 1月

 川瀬敏郎『一日一花』

                      翠の窓vol.116

  川瀬敏郎『一日一花』       

 

 その本は、いつも行っている書店の見慣れた棚に、表紙をこちらに向けて置かれていました。川瀬敏郎の名と書名に引かれて何気なく手にすると、厚さ2センチ以上もあるその本はずっしりとした手応えです。

 何気なく開いたページの右と左にそれぞれ一輪の山野草。茶色を含んだグレーの壁を背にシンプルに生けられた草花の端正な美しさに、思いがけず胸をつかれました。他のページをめくると、そこにも同様のシチュエーションで、右と左に一輪ずつの草花が配置されています。それぞれに日付がついていて、なるほど1年366日分の草花が載っていることがわかりました。

 これは相当に見応えのあるものだという直観と、川瀬敏郎さんに間違いはないという思いで、迷わず買って帰りました。私より草花好きの家人の方が喜びそうだと思った通り、さっそくこの花この草とページをめくり虜になっているようです。

 しばらくしてあとがきを読み、この『一日一花』が、東日本大震災直後は花を手にすることができずにいた川瀬さんが、被災地で花をながめる人々の無心の笑顔にふれて「生者死者にかかわらず毎日だれかのために、この国のたましいの記憶である草木花をたてまつり、届けたいと願って」始められたものだということを知りました。また、川瀬さんは『一日一花』を花による曼荼羅と思い描き、あらゆる花を手向けたいとの心願があったと書いています。

 書店で何気なくページを開いたときに感じたしんとしたたたずまいは、川瀬さんのこんな思いを如実に伝えてくれていたのでしょう。

 それにしても、一つ一つの草花の姿・形・色の何と美しいことでしょうか、何と豊かなことでしょうか。このような山野草の多くを身近に見られる里山暮らしの豊かさにもあらためて気づかされます。

 (Y)

2013・3・26

29 1月

おいしい器『色絵染附花文四方皿』おつまみをのせて

翠の窓vol.113

おいしい器『色絵染附花文四方皿』

おつまみをのせて

この頃ちょっと気に入っているおつまみがあります。

とにかく速い、ということは簡単、そしておいしいのだから言うことなし!のレシピを見つけたのです。

「クリームチーズの上にかつお節ときざんだねぎをのせ、しょうゆを数滴かける」というのが全レシピ。その名も『クリームチーズの冷ややっこ風』。

 ちょっと味が想像できない?・・・かもしれませんが、これがなかなか、洋と和の絶妙な取り合わせが口の中で何の違和感もなく、思わず「おいしい」と一口で虜になってしまいました。お酒の味については門外漢ですが、日本酒にビールに、白ワインや流行のハイボールとやらにも合いそうです。

 器は何にしようかと考えて、四角いクリームチーズの形に合わせて、正木春蔵さんの『色絵染附花文四方皿』にのせてみました。小さめの四方皿というのは割りと珍しく、その絵柄の雰囲気からお菓子や果物の取り皿に似合って使ってきましたけど、こんな洒落たおつまみにもぴったり合ってくれました。

 クリームチーズはめったに使うことはないのですが、キリのクリームチーズは、スーパーでよく見かけますし、ちょうどいい大きさの個装になっているのが便利なので、冷蔵庫の常備品になっています。

 ふいのお客様にも、この速攻性と意外性がお役に立ちそうです。簡単でシンプルだからこそ、器はおろそかにしないでお洒落にお出ししてみるといいのではないかしら。

 (Y)                             

2013.1.26

04 1月

器を楽しむ

                       翠の窓vol.190

器を楽しむ

明けましておめでとうございます。

 

雲がたちこめて、期待の初日の出を拝むことはできませんでしたが、天候は落ちついて、穏やかな年明けとなりました。

皆様には、希望に満ちた佳い年を迎えられ、ご家族で、帰省の方やお知り合いの方々と共に、お正月の膳を囲まれていらっしゃることでしょう。

我が家では、ここ数年年末に近くなると、おせちは作らなくていいことにしようかと話したりしますが、神奈川の知人が、年末には決まって、小田原のおいしい蒲鉾や伊達巻を送ってくださるので、今年もそれに励まされて、黒豆、栗きんとん、なます、筑前煮位を作って、形ばかりのおせちを整えました。

毎年、Suiで扱っている作家の器に盛り付けているのですが、今年使ってみようと心づもりしていたのは、ハービーヤングさんの「飴釉大長皿」です。一昨年、ハービーさんの遺作展で求めた「飴釉大長皿」は、その造形、色、大きさも素晴らしく、一目ぼれした作品です。大きく存在感があり、大家族やお集まりのときなど、大皿料理を盛り付けたら、どんなに映えることだろうと、あれこれ盛り付けてみたい料理を想定していました。

出来上がった料理に合わせて器を選ぶというのが大方のところでしょうが、器が先にあって、それに合う料理を何にしようかと思案する、料理心をかきたてる器というものも少なくありません。ハービーさんの「飴釉大長皿」は、正にそんな器の一つです。

この皿には、板そばの感覚で、蕎麦を盛り付けたら、皿の飴色と蕎麦の色が互いを引き立てて、どんなにか美味しそうに見映えがすることでしょう。薬味のネギも脇に添えたら、ネギの白や緑が、全体の色合いを一層引き立ててくれること請け合いです。

他にも・・・と、アイデアがいろいろ沸いてくるこのような器が手元にあることで、食卓が、食生活が豊かになっていくことは、日々の暮らしの大きな楽しみ・喜びと言えましょう。

Suiの器コーナーでは、今年も、皆様の暮らしに彩りと豊かさをもたらす器を提示していけるよう心がけていきたいと思います。あなたのお気に入りを見つけていただけたらとてもうれしいです。(Y)

2019.1.2

 

益子で作陶していたハービーさんは、東日本大震災後に体調 を崩して亡くなられました。Suiではオープン以来、モーニングカップや皿など展示しており、人気がありました。

03 1月

カタクリの花の群生に出会うカタクリの花の群生に出会う

                       翠の窓vol.152

カタクリの花の群生に出会う                

 

 用事があって秋田市に出かけた帰り、久しぶりに角館に回ることにしました。

 武家屋敷のしだれ桜は、あちこちに少しずつ開花しているところがあって、小さなお花見ができました。

 思い立って、知人のSさんの店を訪ねると、折よく店に出ていたSさんから、「桜には早かったけど、カタクリの花を見に行きませんか」との思いがけないお誘い。車で15分ほど山に入ったFさん宅のすぐ裏手の山に案内されて、唖然!! 広い斜面一面がちょうど陽が当たっていて、濃いピンク色の花におおわれているではありませんか。こんなに群生しているとは・・・

 かねてから見たい見たいと願っていながら(特に家人は)、なかなかその機会に巡り合えなかったカタクリの群生にあっけなく出会えた瞬間です。その眺めはすごい!としか言いようがありません。

 日陰になっている向かい側のこれまた広い斜面一面にも、群生は広がっていて、陽が当たるとそれは見事な眺めになるのだそうです。

 それのみならず、少し先の山にも同じく群生している所があると聞いて、車で数分移動すると、まだ雪が少し残っている山道の先に、数本の栗の木がある山の斜面にカタクリの花が点在していました。時期が来ると、この一面もピンク色に染まるのだそうです。どの山も下草が刈られ、きれいに整備されているのはFさんご夫妻の並々ならぬ手入れの賜物であり、それあってこそ、この見事な群生が現出しているのでしょう。

 角館に立ち寄ったこと。Sさんに出会えたこと。Sさんがカタクリの群生を見に行こうと誘ってくれたこと。雨の予報がはずれ陽がさす時間に山に行けたこと・・・

全てがうまく巡り巡って、永年見たいと願っていたカタクリの群生についに出会えたのでした。

不思議な気分で、家人は「度肝を抜かれた」と興奮覚めやらず帰途につきました。めでたし めでたし。   ()

2015・4・15

29 12月

元日の朝に

翠の窓vol.146

元日の朝に

              
 

明けましておめでとうございます。 

 

「新年は何日からですか」と聞かれ、「1日からです」とお答えして、半ばあきれられること6年目。今年も、元旦早朝からストーブに火を入れて、お客様をお待ちしておりました。         

Suiの目の前の、優美な鳥海山の右裾野に昇る     元旦の空

初日の出を見ていただきたいと願ってのことですが、

今日は初日そのものを見ることはできませんでした。

鳥海山には薄いグレーの雲がかかり、両裾野も雲におおわれていましたが、その上には青空も見えていて、雲の陰に初日が出ている気配があります。グレーの雲のひとところには初日の光が差し込んで、初日の明るい力強さを感じさせています。

店を整えてから、まずは、山全体がご神体である鳥海山に向かい、柏手を打ちご挨拶するのが、わたしたちの恒例の初詣です。

昨年末に、我が家の1年間の十大ニュースを挙げてみましたら、

美しい暮らしを奏でる4人展開催

裏の林のプロジェクト開始

遊佐米で玄米焙煎 玄米コーヒー試作 など

そのほとんどはSuiに関わることばかりで、Sui中心の生活であったことを物語るものでした。更に、その大半は、今年につなげて発展展開されることを期待したい事柄です。

 移住直後イメージしていた、のんびりしたセカンドライフとは、大きく軌道修正されて、今年もまだまだ、わたしたちなりの新しい挑戦が出来そうな気配です。

 また、あっという間の1年を過ごすことになりそうですが、365日を過ごすことに間違いはないのですから、セカンドライフのささやかな夢が実現される一日一日でありたいと願った元日の朝

2015年1月1日         でした。 (Y)

28 12月

ちょっと大きめがマイ・ブーム

翠の窓vol.145

ちょっと大きめがマイ・ブーム

 

〈取り皿〉

 夕食に、練り物のおでんを土鍋に用意しました。

さて、取り皿は・・・と考えて、先頃入荷したばかりの、正木春藏さんの「鶴松鹿図六寸皿」を使ってみようと思い立ちました。いつもは直径15〜 16cm位の平皿を使うことが多いのですが、「鶴松鹿図六寸皿」は少し大きめで、直径18cm、ふちが緩やかに立ち上がって、深みが3cm弱ありますので、おでんの汁もちゃんと受け止めてくれます。

お皿のふちに辛子を添え、練り物を一つ取って、汁も入れてと使ってみると、余裕のある大きさが心地よく使いやすいのです。鶴・松・鹿・扇と、いろいろ描きこんでいるわりに余白の白地の部分も多い染付の絵柄がよい上に、この大きさが気に入って、このところ取り皿としての出番が多くなりました。

〈受け鉢〉

鍋物をすることの多い季節、我が家の鍋物の受け鉢には、直径14cmの浅めながら鍋物用としては大きめのカップを使っています。フランスのJARS社のシンプルなフルーツカップなのですが、渋いグリーンのフランスらしいシックな色合いで、和食の鍋料理の食卓にも違和感なく馴染んでいます。以前は、一般的な小ぶりの小鉢を使っていましたが、これまた、鍋物の受け鉢としては大ぶりなこのカップがとても使いよいのです。

今日、正木春藏さんから入荷した「松竹梅文碗」がJARS社のカップと形・大きさがほぼ同じなのでびっくり。雰囲気は全く違うものの、使い勝手はきっとよいはず、おめでたい図柄でもあり、お正月の食卓にお勧めです。鍋物の受け鉢のみならず、小鉢として、また、小丼用として、ちらし寿司を入れたり、炊き込みご飯などを入れたり、用途が広いのも魅力です。

 

食卓は、どちらのご家庭でも暮らしの中心となるものではないでしょうか。

心あらたまる新年、いつもの食卓に、一つでも二つでも新しい器が加わることで、心が浮き立ちもし、気分も一新されることでしょう。

来年も、皆様の美しいおいしい食卓作りに、Suiの器をお役立ていただけますよう願っております。 (Y)

2014.12.21

16 12月

心地よい暮らし

翠の窓 vol.189

心地よい暮らし        

 

今年も、「あっという間」の文言通りに、年末が間近に迫ってきました。皆様には、どんな1年をお過ごしだったのでしょうか。

北欧(主としてデンマーク・ノルウェー)に、『ヒュッゲ』とよばれる概念があることを、しばらく前に知りました。

『ヒュッゲ』とは、「居心地のよい雰囲気」というニュアンスを伝える言葉で、衣食住、その他日々の暮らしの中の諸々の場面での心地よい経験を表す言葉のようです。

ですから、例えば、

「家族や友人たちと和やかに過ごす」

「野外に出て自然に身をゆだねる」

「常にアクティブに、自立して暮らす」

「シンプルに美しく住まいを整える」ことなど、

暮らしの全てに心地よさを感じられる生き方をすることを『ヒュッゲ』と言い表しているのだと知りました。

日本語には、一言で同様の概念を表す言葉はありませんが、心地よい暮らしをしたいという『ヒュッゲ』に共通する願いは、誰しもがもち、実践していることでしょう。

皆様にとっての『ヒュッゲ』な時間とは、どのようなものでしょうか。

Suiは間もなく10周年、山麓の小さなティールームに途切れることなくお客様を迎えることができるのは、考えてみれば、ささやかながら、皆様に心地よい場と時間(『ヒュッゲ』な時間)を提供する所と期待していただいているからなのだろうと思い至りました。

「鳥海山と田園の美しい景観を愛でる」

「ギャラリーの作品に親しむ」

「好みの器を求める」

「暖かい暖炉の火を見ながら、飲み物やスイーツでホッとする時間を過ごす」・・・など、これからも、皆様の心地よい時間づくりの場となるように努めたいと改めて思います。 

                                     (Y)   2018.12.10

 

『ヒュッゲ』は、とても奥深い概念です。『ヒュッゲ』を知るとても楽しい本があります。

 

『HYGGE 365日 シンプルな幸せのつくり方』 三笠書房

『北欧が教えてくれた、「ヒュッゲ」な暮らしの秘密』 日本文芸社

07 12月

「遊佐」賛歌

翠の窓 vol.164

「遊佐」賛歌        

 

九谷青窯(石川県小松市)に出向くため、期せずして初めて北陸新幹線に乗る機会を得ました。落ち着いた錆朱色のシート、枕を上下できたり、コンセントが配置されていたり、新しい仕様が見られました。                   

座席ポケットには、これはおなじみのJR東日本の情報誌「トランベール」4月号が入っていて、その巻頭に、沢木耕太郎さんの「夢の旅」というエッセイが載っていました。その中盤に「私はある小説を書いていて、重要登場人物の出身地をどこにしようかと考えながら日本地図を眺めていた。」という一節があって、あっ、これは今朝日新聞に連載中の『春に散る』のことだなと思いつつ読み進めると、

「 遊佐 」

という文字が、前後1行ずつを空白にしてきわだたせて書かれているではありませんか。なんと、我が町遊佐です! 地図を眺めていて、ふっと目に留まった地名が「遊佐」だったのだそうです。

 沢木さんが、その理由のひとつとして、

「何と言ってもその字の美しいことである。軽やかで楽しげでスマートだ。」と書いている一文には、思わず目がパチッとして、何度も読み返し、我が意を得たり、とてもうれしくなりました。

 高畠町の星寛治さん(農民詩人)が、かつて遊佐のことを「庄内の美しいハート遊佐町」と詠まれたということとも相通じる遊佐賛歌と言えるのではないでしょうか。

『春に散る』の登場人物の一人の出身地を遊佐と決めた後で、沢木さんは、遊佐がどんな町なのか気になりはじめ、昨春遊佐を訪れ、周辺の風光明媚な様、特に「朝日を浴びた鳥海山が、田植え直後の田圃の水に映っていたこと」に強く心動かされたと書かれています。

 金沢に向かう車中で何気なく手にした冊子で目にすることができたこのエッセイは、とてもうれしい贈り物でした。

 毎朝、まずは朝日新聞の『春に散る』を読むことを日課にしている家人もきっと喜ぶことだろうと「トランベール」を何よりのおみやげに、カバンに大事にしまいました。

                               (Y)                       2016.4.6