02 11月

「遊佐」賛歌

翠の窓 vol.164

「遊佐」賛歌        

 

九谷青窯(石川県小松市)に出向くため、期せずして初めて北陸新幹線に乗る機会を得ました。落ち着いた錆朱色のシート、枕を上下できたり、コンセントが配置されていたり、新しい仕様が見られました。                   

座席ポケットには、これはおなじみのJR東日本の情報誌「トランベール」4月号が入っていて、その巻頭に、沢木耕太郎さんの「夢の旅」というエッセイが載っていました。その中盤に「私はある小説を書いていて、重要登場人物の出身地をどこにしようかと考えながら日本地図を眺めていた。」という一節があって、  あっ、これは今朝日新聞に連載中の『春に散る』のことだなと思いつつ読み  進めると、

「 遊佐 」

という文字が、前後1行ずつを空白にしてきわだたせて書かれているではありませんか。なんと、我が町遊佐です! 地図を眺めていて、ふっと目に留まった地名が「遊佐」だったのだそうです。

沢木さんが、その理由のひとつとして、

「何と言ってもその字の美しいことである。

軽やかで楽しげでスマートだ。」

と書いている一文には、思わず目がパチッ

として、何度も読み返し、我が意を得たり、

とてもうれしくなりました。

 高畠町の星寛治さん(農民詩人)が、かつて遊佐のことを「庄内の美しいハート遊佐町」と詠まれたということとも相通じる遊佐賛歌と言えるのではないでしょうか。

『春に散る』の登場人物の一人の出身地を遊佐と決めた後で、沢木さんは、遊佐がどんな町なのか気になりはじめ、昨春遊佐を訪れ、周辺の風光明媚な様、特に「朝日を浴びた鳥海山が、田植え直後の田圃の水に映っていたこと」に強く心動かされたと書かれています。

 金沢に向かう車中で何気なく手にした冊子で目にすることができたこのエッセイは、とてもうれしい贈り物でした。

 毎朝、まずは朝日新聞の『春に散る』を読むことを日課にしている家人もきっと喜ぶことだろうと「トランベール」を何よりのおみやげに、カバンに大事にしまいました。                                       

(Y)                         

2016.4.6

02 11月

九谷青窯へ

翠の窓 vol.163

九谷青窯へ          


久しぶりに「九谷青窯」(石川県小松市)に、器の仕入れに出かけようと思い立ち、行き慣れたコースながら、念のため列車の時刻表を開きました。

酒田を早朝一番列車で出ると、新潟で乗り換えるだけで、金沢には昼前に到着し、行動を開始するというのがいつものこと。そのつもりで、乗り換え時刻を確かめましたが、金沢に到着する便が      キブシ(木五倍子)

みつかりません。歳をとって、時刻表もうまく読みとれなくなったのかと戸惑いつつ、路線図を見ていて、ハタと、北陸新幹線が開通したことで、在来線の特急(北越〇号)が廃止になったのだ!と思い至りました。

そうすると、どうしても糸魚川あたりで新幹線に乗り換える必要があり、では新潟から糸魚川までどう出るのかと頭を悩ませることになりました。

結局、みどりの窓口で、新幹線上越妙高経由の乗り継ぎを提示されて、どうにか金沢へは、従来の行き方とあまり変わらぬ時刻に到着できました。ヤレヤレ・・・

「九谷青窯」を訪ねるのは1年ぶりになりますが、今年新人が入って、現在12名の若い作陶家が、日々の研鑚を積んでいるそうです。この工房からは、独立して窯を開き、一人前の作家として活躍している方を数多く輩出しています。

いつもの通り、広い作品展示場に所せましと並べられた作品を見て回り、私の目に留まったものを選んでみました。今回は、平皿・小皿・中鉢・フリーカップ等、そのほとんどが染付の作品です。

これからの季節、きっと涼やかな食卓を演出する一助となってくれることでしょう。4月中旬には皆様にご覧いただけることと思います。作陶の力を磨いている若い方々の作品をお楽しみに。

 (Y)

「マンサクの花」                       2016.4.6

軸:早春の峠の径は明るくて

もろ木の芽吹きにおいただよう 

02 11月

東京メトロでの出来事

翠の窓 vol.162

東京メトロでの出来事

 

一面の雪景色だった田んぼの雪が解け、田が土色を見せるのも、これで何度目のことか。その都度、冬は薄紙をはぐように少しずつ遠のいているのでしょうか。

それにしても、今朝の空気のまだ冷たいこと。髪にブラシをかけながら、ふと先週の出来事を思い出していました。

その時、私は東京メトロ 九段下で電車を待っていました。ちょうど入ってきた電車に乗り込もうとしたところで、

「すごく素敵な髪型ですね。」

と背後からの声。私のこと?と振り向くと、40〜50才代位の女性が、重ねて、「どちらでカットされているんですか。」

と言うのです。えっ!?「そんなこと言われたの初めてです〜」とか何とか言いつつ、私はそそくさと電車に乗ってしまいました。ホームでニコニコしている女性と目が合ったので、お互いに小さく手を振ってお別れ、ほんの30秒ほどの出来事でしたけど、いやあびっくり。でも、そのとき私はオレンジ色のフード付きコートを着ていて、あちらこそ、思いがけず年配の顔が振り向いたのでびっくりしたのではないかしらと、一人ニヤニヤしてしまいました。

 その後、東京駅で落ち合った家人に、この出来事を話すと、

「電車に乗るのを遅らせ 

ても、少し話をしてくれ 

ばよかったのに。」

とのこと。あゝそうかぁ、北国の酒田にも腕のいい素敵な美容師さんがいることや、庄内のアピールもできたかもと気づいたのですが、後の祭り。

落ち着いた雰囲気のある女性でしたし、せっかく声をかけてくれたのに、一期一会のご縁を全く生かせなかったのが心残りです。

 今日から3月。お客様との出会いを一期一会と心にとめて、お迎えしたいと思います。(Y)

2016.3.1

02 11月

アジフライ

翠の窓 vol.161

アジフライ           

 

「アジフライ」にはまっています。それも、遊佐町「グリーンストア」のアジフライです。

2週間程前、グリーンストアのお総菜売り場に出ていた、ふっくらしておいしそうなアジフライを、何気なく2枚買って帰りました。Suiの開店準備で遅くなり、朝食とも昼食ともいえるご飯に、このアジフライをいただくと、まだ、ほのかに温かいこのアジフライのおいしいこと!!

ふっくらとして肉厚、衣はかた過ぎず程よいカリカリ感、そして、何より歯に当たる小骨が一本も無いのです。家人と二人「おいしいねぇ」と繰り返しつつ大満足の朝食兼昼食をいただいたのでした。

翌朝、このアジフライを忘れられない家人が、「買って来る!」と張り切って出かけました。お惣菜売り場にはまだ出ていないのを、店の人にお願いしてその場で揚げていただいて、4枚も買って帰りました。帰るなり家人は、「揚げたてが一番」と言いつつ、1枚をペロリ。

朝はパンを予定していたので、あいにくご飯はありません。でも、せっかくの揚げ立てをおいしく食べたいなぁと思案して、「カツサンド」というのがあるのだから「アジフライサンド」があってもいいねと、ひらめきました。

さっそく、食パンをトーストして、サラダ菜とうす切玉ねぎをのせ、その上にアジフライをのせると、パンにピッタリの大きさです。ご飯にはお醤油でいただきましたけど、サンドイッチなのでとんかつソースをかけてサンドしました。

2つに切って、それぞれにパクリといただくと、大正解! 思わず「おいしいねぇ」の声が出ました。カツサンドに負けないボリュームとおいしさです。揚げた端からその場でこうして売ったらきっと行列ができそうです。

出来上がりのタイミングが合ったり合わなかったりのようですけど、まだしばらくは、家人のグリーンストア通いが続きそうです。

我家のおかずに、たのもしい味方ができました。 (Y)

2016.2.27

02 11月

ビストロ土鍋

翠の窓 vol.160

ビストロ土鍋

 

Suiで、絵の展示をしていただいている石田典子さんから、思いがけなく宅急便が届きました。中から出てきたのは、お鍋!

数日前に届いた石田さんからの葉書に、ご自宅のキッチンの窓辺と思われる一角が写されていて、その端に置かれていた端正な黒いお鍋にくぎ付けになりました。素敵なお鍋ですねとお返事を出したのを受けて、すぐに取り寄せて送ってくださったようです。

写真では、鉄製かしらと思ったお鍋は、なんと土鍋なのでした。浅めで小ぶりな、とてもシンプルなデザイン、持ち手や蓋の取手が四角いのが、従来の土鍋にはないモダンな感じを醸し出しています。

実は、少し前から、アヒージョなどが出来る小ぶりな鍋はないものかと、それとなく探していたのです。送っていただいた鍋は『ビストロ土鍋』と名付けられていて、これぞ私が欲しいと願っていた鍋そのものと言えます。

さっそくこのビストロ鍋を使ってみたくて、この日の夕食に、ありあわせのエビで「エビのアヒージョ」を作ってみました。少したっぷり目のオリーブオイルに刻んだニンニクを入れ、香りの立ったところへエビを入れて軽く炒め煮します。味付けは塩を少々。おいしそうな香りに誘われて、「これはワインでしょ。」と、ふだんはあまり飲むことのない白ワインを開けると、食卓は、たちまちビストロ風になりました。

イカやタコ、アサリ、ソーセージなどをメイン食材にして、炒める・煮込む・蒸し焼き・オーブン焼きと、いろいろなメニューに対応してくれそうで、バラエティーが広がり、且つ毎日の調理にも楽しみが増えそうです。

石田さんが「良い鍋を使って、食事作りを少しでも楽しくしたいと思っている」と言われていたことが、十分に納得できたことでした。

それにしても、欲しいなと願っていたものが、こんな風に思いがけない形で手元にやって来たことにびっくり、これぞシンクロニシティだと、うれしさも倍増。石田さんに心から感謝して、さて、今夜もビストロ土鍋の出番です。    

(Y)

 

2016.2.15

02 11月

―岡田直人さんの器―         使い勝手の魅力 造形の魅力

翠の窓vol.159

―岡田直人さんの器―         

使い勝手の魅力 造形の魅力

 

「これ、お茶っ葉が詰まらない?」

と、お客様に問われて、「詰まりませんよ。」とお答えしたのに、

「本当にお茶っ葉が詰まらないの?」

と重ねて念を押されました。「うちでは、朝晩使っていますけど詰まりませんよ。」と伝えましたが、「詰まらないの?」と再三の疑問。

 どういうこと?今どき、そんなに茶葉が詰まって困る急須があるのかしらん?

 お客様が手にとっていたのは、岡田直人さんの白磁の『丸ポット』です。我家では、仕入れてすぐからもう4年あまり使っていますが、茶葉の詰まりを感じたことは一度もありませんし、洗う時も、二度ほど水を注いで軽くゆすって流せば茶葉は簡単に取り除かれ、不都合に感じられることは全くありません。細い注ぎ口からはスムーズにお茶を注ぐことができ、液だれすることもない使い勝手の良いポットですから、日本茶だけでなく紅茶を入れるときも、自然とこのポットに手が伸びます。これが普通のこととして使ってきましたので、先のお客様のような疑問を聞くこと自体、いぶかしく思えてしまいました。

 この日の夕方、思いがけなく岡田直人さんから久々の荷が届きました。出来上がってきたのは、『楕円マグカップ』と『円筒マグカップ』、1年ほど前に注文していたものの一部がやっと届いたのです。

 岡田直人さんの器は、雑誌や器店の案内などに、その名と共によく見るようになり、全国的に人気上昇中の作家さんになっているようです。

『楕円マグカップ』と『円筒マグカップ』は『丸ポット』と同様、Suiでも人気の器で、入荷を待っていてくれたお客様が何人もいらっしゃいます。

 やさしいアイボリーの色合い、シンプルながら他に見ないお洒落な造形は、岡田直人さんの誠実な人柄そのもののように思えます。

 在庫数のあるところで、是非手に取ってご覧ください。在庫が切れましたら、次の入荷はまた大分先のことになりましょう。   (Y)

2015.12.14

02 11月

暮らしを楽しく豊かに彩るもの

翠の窓vol.158

暮らしを楽しく豊かに彩るもの


夕方、リース作家の安藤由紀子さんが、今年の新作リースを届けに来てくれました。

大小全部で8つ、一つ一つ箱から取り出す度に、ハーブの香りが広がり、「すご〜い」と思わず歓声を上げてしまう程の力作ぞろいです。

Suiでの安藤さんのリース展『森はうたう』は、今年で5回目。今や、ツルに様々なハーブをびっしり埋め込んだものを土台にして、ニゲラや木の実などを幾重にも重ねて差し込んで形作るという、とても手の込んだ、正に安藤さんオリジナルの作風を完成させたリースです。

大きいものも小さいものもそれぞれにボリュームがあり、とても見ごたえがあります。

 

スウェーデンのウールのミニバッグ(クリッパン製)を持っていたら、知人に「それ、私も欲しい!」と言われました。北欧雑貨の本を見ると、魅力的なものが沢山あります。Suiで少し取り扱ってみようと思います。アイアンのキャンドルホルダーやナプキンスタンド、色柄の美しいトレイ・ランチョンマット・ペーパーナプキン・・・etc

品物が入り次第、順次展示します。

 

末宗美香子さん(Suiの壁画の作家)の2016年オリジナルカレンダーができました。ユニークな顔のデザイン、独特な色づかい。お部屋の壁の一面をギャラリーのように、壁画のように彩ってくれることでしょう。

 

リース、北欧の品々、カレンダーなど、晩秋から冬にかけての日々の暮らしを楽しく豊かにしてくれるお気に入りを見つけていただけますように。

(Y)

2015.11.20

02 11月

「22山麓」だより

 「22山麓」だより

 

石田典子さんの春の作品展を『花と街』とした。

江間章子さんと團伊玖磨さんコンビの『花の街』

が口をついてでた。

ラジオから流れた都会的でお洒落な歌だったなぁ。

 

七色の谷を越えて

流れていく風のリボン

輪になって輪になって

かけて行ったよ

春よ春よと

かけて行ったよ

 

美しい海を見たよ

あふれていた花の街よ

輪になって輪になって

踊っていたよ

春よ春よと

踊っていたよ

 

すみれ色した窓で

泣いていたよ街の角で

輪になって輪になって

春の夕暮れ

一人さびしく

泣いていたよ

 

初めて返信用封筒を入れて投函した先は、日本放送協会「みんなのうた」係だった。

「おお牧場は緑」の伸びやかな歌声に少年は「牧場」にシフトした。送られてきた

楽譜は、二つ折りでなく三つ折りになった洒落た楽譜だった。TVの前に座って大きな声で歌った。「みんなのうた」の本が発売された頃に、三つ折りの楽譜の姿は消えた。

「22山麓」で歌うこともなくなった昨今、この日、風呂に入っても歌っていた。久々に歌った。歌うことを忘れていたなぁ。

 

※「22山麓」は、鳥海山の標高2236Mをオリジナル名詞にした造語です。

02 11月

朝の花しごと

                        翠の窓vol.185

朝の花しごと       

 

風の音か?とふっと目が覚め、窓の外を見ると、まだ黒々とした影の中にある鳥海山の頭上に、灰色の雲がきれぎれに飛んで、その一つ一つが朝焼けのオレンジ色にふちどられている光景が目に飛び込んできました。

ちょっとドキッとするような、初めて目にする光景です。台風の影響の雲の流れかもしれません。

まだ起き出すには早い時刻でしたが、涼しさに誘われて庭に出ました。庭を一巡りしながら、店の花の準備にとりかかるのはいつものこと。

この時季、まずはアジサイいろいろ。今年は念願のチョコレートコスモスが元気よく育ち、惜し気なく切ることができます。白い大輪の花はカサブランカ。ヒオウギスイセンも、鮮やかなオレンジ色の花をつけ始めています。

切り取った花は、まずは玄関先の水盤入れていき、まとめて水切りをしておきます。

店内には、いろいろに花を飾りますが、この時季お客様の目を引くのは、アジサイの「フェアリー・アイ」です。バラのように花びらが数枚重なった小花が集まっている様が、とても可憐です。

鉢植えでいただいたものから、家人が数年かけ挿し木をして育て上げたものが、いくつか大きな株に育って沢山の花をつけるようになりましたが、その花があまりに可愛らしくて切るのを躊躇してしまいます。

美しいブルーが、これから少しずつ退化していって、秋色に変化していく様が、またみごとなので、その変化の様子を見ていくのが、これからの楽しみでもあります。

稲も緑豊かに育ちました。花を見ながら庭から畦道への散歩はいかがでしょうか。                     (Y)

                        2018.7.26

02 11月

秋のごちそう

                        翠の窓vol.187

秋のごちそう

角館近郊に住むFさんから、大きな重い宅配便が届きました。

段ボールを開けると、一面黄色の食用菊が並んでいて、その鮮やかさにびっくり。その下には、茎についたままの里芋がごろごろ。更に新聞紙を取り除くと、大粒の栗がどっさり重なっていて、思わずわあっと声を上げてしまいました。栗は、私の大好物。秋のおいしさを詰め込んだ、思いがけない贈り物です。

Fさんのお宅を囲む小高い山々には、栗の木が沢山植えられていて、ご主人が丹精して育て手入れをされています。

いつも栗拾いをさせてもらうのを楽しみにしていたのですが、少し前に電話で話したときに、今年は、天候不順で早く実が落ちて虫食いばっかりだったと聞いて、私が栗拾いの時期を失したのをあまりに残念がったせいでしょう、「畑に入れる栗の葉を集めに行ったら、その下に虫栗が落ちていて、食べるところがあるか心配ですが、失礼な栗を送ります。」との添え書きをつけて、送ってくれたのでした。

家人は、さっそく庭の炉に火を起こして、羽釜で栗を茹で、脇では焼き栗も試みています。

私は渋皮煮を作りながら、茹で栗の中身をハンドミキサーにかけ(西明寺栗なので、虫食いの部分を取り除いても、普通サイズの1.5倍~2倍の身の量がある)、砂糖を加えて、練り上げました。そのまま栗きんとんに、ホイップクリームをかければしゃれたマロンシャンティにパンに、つければ栗ジャムにとたっぷり楽しめそうです。

夕食には、菊はおひたし、里芋はいも煮に。秋の味覚満載の豊かなごちそうに舌づつみ、Fさんの心づくしのおかげで、今日は一日中満ち足りた思いで過ごしました。(Y)

『庄内の美しいハート』

                2018.10.17