01 1月

翠の窓vol.56 : 用の美

 

新年おめでとうございます。

年末年始大荒れの予報はどこへやら、遊佐は穏やかな新年の朝を迎えました。雪を頂いた鳥海山は、その全容を見せてくれています。初日の出を期待しましたが、薄い雲に阻まれているので、雲の切れ間からわずかにもれる日の光に、まずは手を合わせてSuiの新しい一年が始まりました。

昨年は暮れも大分押し詰まってから、長いこと箸立てに使ってきた陶器の入れ物に、どうしたはずみかひびが入り口が欠けてしまいました。代わりになる適当なものがなく、取り合えずとガラスの空き瓶に入れてみました。これなら惜しげなく使えます。             「しのぎ」を箸立てに

ところが一日二日朝昼晩、箸を取る度に目に入るガラスの空き瓶が、どうしても違和感があって落ち着きません。丈といい安定感といい我が家の箸にはぴったりの大きさなのに・・・ やはり間に合わせの「空き瓶」ということに気持ちが抵抗しているようです。箸立てとしての『用』は足りているのに『美』がないということなのでしょう。『用の美』とはよく言ったものです。

思い立ってお店に出している岡田直人さんのしのぎのカップに箸を立ててみました。普段使いの何膳かの箸が白磁のカップに出合ってとてもきれいに見えます。そうそうこうでなくっちゃ! 『用の美』とはまさにこのことです。気持ちも落ち着きました。

箸立てはいつもキッチンの目立たない棚の中に置いてあるのですが、これからは、食事の度にテーブルに出してみたい気分です。用を満たす物は巷に幾らでもありますが、自分の趣味に合い気持ちを豊かにしてくれる物を探すのはちょっとした根気がいるものです。Suiのささやかな器のコーナーが、用の美を満たし、豊かな暮らしに彩りを添える品を提供できる一年でありたいと心した年明けです。

 

(Y)   2011.1.1

24 12月

翠の窓vol.55 : 白磁のポット

 

大雪予報が出て、雪がまい始めた中を、

「あのポットが欲しくて。」

とお客様が入って来られました。

岡田直人さんの白磁のポットのことでしょう。

「これこれ、もう少し大きいかと思い込んでたけど、二人分にはちょうどいいわね。娘が帰って来て欲しいと言いそうだから、持たせてもいいし。」

とのこと。そういえば、前回来店して器を求め、ポットについては「お小遣い貯めて買いに来よう。」と言って帰られた方だったと思い出しました。

改めて手にとって気に入ってくださったようです。岡田さんの作品の中でも一押しの商品なので、うれしくなってしまいます。

器のコーナーには、私共が手に取って、また実際に使ってみていいなと思ったものだけを仕入れて紹介してきました。安価な商品が幾らでもある現在、たくさんの方にそれなりに値の張るものを「気に入った一品」として求めていただいたことを心から感謝しています。きっと、それぞれのご家庭で特別の一品として使っていただいているだろうことを思うとうれしい限りです。

今日はクリスマスイブ、折りよく降ってきた雪で文字通りのホワイトクリスマスになりました。イブのテーブルで、白磁のポットはさっそくおいしいティータイムに使っていただいていることでしょう。

(Y)

2010.12.24

02 12月

翠の窓vol.53 : ハレの日に

 

「お誕生日おめでとう。」

可愛らしいお嬢ちゃんと数人のグループから、うれしそうな声が上がりました。

あら、どなたかの誕生日!

居合わせた皆さんも、思わず「おめでとう。」と唱和しました。どうやら、主役はご年配の女性のようです。

「孫が毎日とってもお世話になっているんですよ。もう一人のおばあちゃんみたいなんです。」とのこと。

「お食事ということも考えたんですけど、今日はこんなにいいお天気で、きっと素晴らしい眺めが見られると思って、こちらにしました。」

と、お茶とケーキでなごやかな誕生祝いのティータイムを過ごされました。

今日は朝から雲一つなく、雪化粧の鳥海山が青空にくっきりと浮かんで、絵に描いたような晴天です。

風景もご馳走。日常のハレの日に、Suiを舞台に選んでいただいたことを心からうれしく思いました。

そういえば、この春には庄内在住の外国の3人家族がいらして、お母さんの誕生日だからといって、Suiの器のコーナーから一輪挿しのオブジェを選んでプレゼントされるということもありましたっけ。

今日居合わせた方が、

「ここで自分の誕生日を自分で

お祝いするのもいいわねぇ。」

と言って帰られました。

ささやかでも心なごむ空間を提供し続けられるようにと心新たにした一日でした。

(Y)

2010.12.2

21 11月

翠の窓vol.52 : 満月

4時半過ぎ、鳥海山の東の山裾がホッと明るくなったかと思う間もなく月が顔を出し始めました。

「あっ、出ましたよ。」

と声をかけると、

「おうーっ・・・」

「えっ、なに!・・・月?」

「出てきた出てきた。」

「こんなの見るの初めて。」

と、店内に居合わせた3組のお客様方は、突然の天体ショーに興奮気味。

みるみるうちに、薄いイエローの月がまんまるい姿を現しました。見事な見事な満月です。皆さん、持ち合わせのカメラや携帯でパチパチ。裏手の舞沼に映る満月を写しに行かれた方も、満足そうに戻って来られました。

今日は、朝から夕方までほとんど雲が出ず、雪を頂いた鳥海山が青空にくっきりとその白い姿を見せていました。こんな日は一年の中でも数えるほどしかありませんし、しかも満月の日だったので、朝からとても楽しみにしていたのです。

期待に違わず、見事な月の出を見ることができました。居合わせたお客様方は、今日が満月とも思わずにいたようで、思いがけないサプライズになったようです。

店内の明かりを落とすと、夕闇が迫った中で中空に上がった満月が煌々と輝きを増していき、あたり一面に月明かりが広がって、鳥海山が濃いグレーに浮かび上がってきました。皆さん、しばらく声もなく見入っていました。

お天気と月齢と鳥海山が調和してみせてくれた、素晴らしい贈り物でした。

(Y)  2010.11.21

09 11月

翠の窓vol.51 : 虹の里

虹

薄曇りながらあまり寒くはなしと、日の出の直前に散歩に出ました。

冷たい空気を切って歩き出すと、気持ちが清々としてきます。鳥海山の上の方にはグレイの雲がかかっていますが、西の空には青空も少しのぞいていて今日もまずまずのお天気が期待できそうです。

途中でパラパラと雨が落ちてきましたが、いつの間にか昇ってきていた朝日の雲間からの光を受けて光る様に見惚れて歩いていましたら、

「あっ、虹!」

みるみるうちに大きな大きな虹色の半円になりました。七色がそろった満点の色合いです。片方が田んぼの中から伸び上がった半円が、もう片方を100メートルほど先の車道に吸い込ませています。あの虹の足元に立ってみようと歩きだすと、あれっ! 虹も一緒に先に進んでしまいます。小さい頃、お月様と一緒に歩いたあの感覚です。

へえ、虹もそうなのか・・・ と、この歳になっての発見です。

しばらく歩くと、袋地の林から伸び上がった虹が、朝日に照らされた我が家の緑の屋根に吸い込まれているではありませんか。すご~い、何か大きな宝物をもらったような気分です。

実は、雨の合間にお日様が射すとき、Suiの窓から度々虹を見ることができます。それも、多くはちゃんとした半円で、時には二重に出現するときもあります。ここは虹の里だなと密かに思っているほどです。ちょうど運良くSuiの窓から虹を見ることができたお客様は、みな、

「わっ虹だ!何かいいことがあるね。」

と歓声を上げます。

晴天の鳥海山の景色は素晴らしいけれど、雨や曇天の日にも、こんな素晴らしい贈り物があるんですよ。     (Y)     2010.11.9

24 10月

翠の窓vol.50 : 遠路はるばる

 

昨日までの秋晴れがややかげって、薄曇りながら今日も鳥海山はその全容を見せてくれました。

午後、前日に「新潟から行きます」と予約を入れてくださったお客様が2名来店されました。前にも来店してくださったことのあるKさんとお友達です。

「この景色が見たくて来たんです。今日は鳥海山が全部見えてよかった。」

とのこと。Suiに来ることを目的に、遠路わざわざ来てくださったことに感動してしまいました。しかも、新潟から特急に乗り遊佐駅からはタクシーを使って。

そして、サプライズ!

この日、Suiは昨年の開店以来7000人目のお客様を迎えることが予想されていたのですが、なんと、このKさんが、その7000人目のお客様となったのです。

これには、Kさんもびっくり。ささやかな記念品をお渡ししました。

Kさんの他にも新潟や長岡から度々訪れてくださるお客様や、仙台や福島、東京、横浜、大阪、島根、福岡・・・等々、そして、先日はハンガリー ソルノク市の皆さんなど、庄内を越えた地域からのお客様を迎えることも多くなってきて、この鳥海山の麓の素晴らしい風景の印象が、広く遠く広がり届いていくことを思うとちょっと夢のようです。

(Y)

2010.10.24

21 10月

翠の窓vol.49 : 「いい時間にいらっしゃいました」

 

4時半をまわり日が傾きはじめ、そろそろ閉店にしようかと思ったところへお客様が来られました。

「いい時間にいらっしゃいました。」

と声をかけると、お客様の方はきょとんとしておられます。

コスモス咲いて

コスモス咲いて

日中鳥海山の頂上付近にただよっていた雲がいつの間にか消えて、少し赤らんだ鳥海山がすっきりした姿を見せています。この後鳥海山が夕日の光を受け刻々と色を変えて夕闇に向かう様は、いつものことながらつい見惚れてしまいます。

この時間帯に来店される方は少なく私達のみで見ていることが多いので、たまたま来店された方には、つい先の言葉をかけてしまうことになります。

日本海に沈む夕日をここから見ることはできませんが、鳥海山が赤く染まっていく様を見ていると、夕日の沈みようも同時に見ているような気分になります。赤くなったなと思う間もなく山襞の影が次第に濃くなり葡萄色に変わってくると、夕闇も濃くなって鳥海山全体のシルエットが影絵のようになってきます。

刻一刻と変化する鳥海山

刻一刻と変化する鳥海山

ティールームの明かりを落とすと、ティールームの中に夕闇に包まれます。

声もなく見惚れていたお客様も、ふうっと溜め息をつかれ、いつもと違う鳥海山の姿を堪能してくださるようです。

そうして2時間ほどもゆったりとされていく方が近頃はちらほら出てきました。私共は特別の用事がない限りティールームを開けていますので、この時間をねらってゆっくりした時間を過ごしにお出かけになりませんか。

「いい時間にいらっしゃいました。」とお迎えいたします。

(Y)

2010.10.21

01 10月

翠の窓vol.48 : 稲が一番

 

今日から10月、気持ちよく晴れわたった秋晴れの一日、翠の目の前に広がる田んぼは今年一番の賑わいを見せていました。

白と赤に塗り分けられた7~8台のコンバインがゆっくり行ったり来たりして着々と稲刈りを進め、刈り取った稲穂を待ち受けている軽自動車が道路に並びました。目を凝らすと、作業を進める人々が動いているのも小さく見えます。

「見渡す限りの所を買い取って、一面ヒマワリでも植えたら、素晴らしいイベント場にできますね。」

今年一番の賑わいをみせた山麓の稲刈り風景  というような想像をふくらませて語るお客様がたまにいらっしゃいますが、この景色を数年見てきた私達は、その都度、

「いやいや、何といっても稲が一番ですよ。」

と、伝える声にも力が入ってしまいます。

四季を通じての田の様子、稲の成長は見飽きるということがありません。

やっと目を覚ましかけたような雪解けの田んぼ → 田起こしされて黒い土の盛り上がった田んぼ → 水を張られて生き返った田んぼ → 若緑の苗が日に日に成長していく様 → 風にそよぐ一面の青田が次第に黄色く色づいていく様 → 黄金色の稲の広がり → 整然と並んだ枯れ葉色の切り株・・・

一面のヒマワリなども目を見張るものがあるでしょうけれど、それはその一時期のもの。稲は、一年通して様々な変化を見せながら目を楽しませ、気持ちを和ませてくれます。しかも豊かな実りを伴って。

稲が何といっても一番です!稲に勝るものは思い浮かびません。稲作りを支えてくださる農家の方々には感謝の念でいっぱいです。

鳥海山の見守るこの遊佐の里の何ものにもかえがたい風景と豊かな実りが変わらぬものでありますように。          (Y)  2010.10.1

20 9月

翠の窓vol.47 : お地蔵さまに遊佐刺し子

 

遊佐町の幾つかのお寺さんのお地蔵さまが、遊佐刺し子のよだれ掛けで装われています。可愛らしい赤いよだれ掛けに代わって、とてもシックな装いです。

私たちは、遊佐に移って間もなく「語りべの館」で遠藤あやめさんの刺し子の作品に出会い、遊佐刺し子の存在を知りました。刺し子に興味を抱いていた訳ではありませんが、遊佐独自のものがあることに引かれ、NHK文化センター庄内の刺し子教室に通い基礎刺しを習いました。ある規則に従って横方向に刺し、その後縦方向を刺していくや目的の模様が浮かび上がってくるのが面白くて夢中になりました。

藤崎 門葉寺のお地蔵さん

藤崎 門葉寺のお地蔵さん

一緒に習っていた家人は、当初から「こんなに素晴らしい遊佐独自のものがあるのだから、遊佐のあちこちにあるお地蔵さまに遊佐刺し子のよだれ掛けを掛けてあげたら素晴らしいね。遊佐も遊佐刺し子もアピールできるね。」と話していました。

今年になってギャラリーに来てくださった刺し子サークルの方(偶然にも遠藤あやめさんを中心とするサークルだった)にも同様の話をしたところ、会員で作ってみましょうと話が進んで、お寺さんの住職様やお地蔵さまを守っている方々のご好意を得て、この夏実現の運びとなったものです。

すでに、50体に近いお地蔵さまに遊佐刺し子のよだれ掛けを掛けていただきました。風雨にあたり陽にあたり色あせてきているものもありますが、それはそれで風情があります。ご賛同を得て、さらに遊佐のあちこちのお地蔵さまが遊佐刺し子のよだれ掛けで装おわれたら・・・と夢が広がります。

大井  正寿寺の六地蔵さん

大井  正寿寺の六地蔵さん

皆様も、散歩がてら遊佐刺し子のお地蔵さま参りをしてみませんか。 (Y)

2010.9.20

10 9月

翠の窓vol.46 : 岡田直人さんの白磁

 

作家の岡田直人さんに初めて会ってから5ヶ月、待ちに待った器が届き、器コーナーのメインテーブルに白磁の作品が並びました。オフホワイトの優しい色合いは、染付けや色絵の器とは違う魅力を放っています。

この春紹介してくださる方がいて工房を訪ねると、注文品の発想準備に忙しいところを快く対応してくださった岡田さんは、実に爽やかな好青年でした。

春から夏にかけての個展のために制作された大量の作品を惜しげもなく見せてくださった中に、一番に釘付けになったのはポットです。ころんとした丸い形、平たい蓋、持ちやすそうな把手、細い注ぎ口、探していた物があったと直観しました。

とてもシンプルエスが、よく見ると細かいところまで神経の行き届いた造りになっているのがわかりました。把手に施された凸部分には、親指が具合よく掛かって安定して持てます。空気を入れるために本体に刻んだ切り込みは、蓋をすると見えないようになっています。そして、注ぎ口の角度やその先にわずかに施されたとんがりが、水切れを完全なものにしてくれます。

このポットと対にして使いたいカップも2種類選びました。円柱のような小振りなマグカップ、口の開いた楕円のマグカップ、どんなお茶をいれてもおいしそうです。また、しのぎの猪口は、お酒に限らずお茶にも。しのぎのフリーカップは、秋のビールをおいしくしてくれそうです。

どれもまずは自分で使ってみたい物ばかりえす。皆様も、手にとってその形のよさ、持ちやすさを実感してみてください。今後は、平皿や鉢ものなど日常の食卓にのせたい器を増やしていく予定ですので、ご期待ください。(Y)

2010.9.10