01 8月

翠の窓vol.125 : 荒川尚也さんのガラス器

 

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数年前、神奈川の器屋さんでちょっと変わったグラスに会いました。

グラスというより、小鉢のように下方がすぼまり、下半分はガラスを重ねてふっくらして、境目に一列並んだ小さなアワがアクセントになっています。ちょっと変わった形が気に入って、冷茶をいただくのに愛用していました。

その後、金沢のギャラリーで同じものに出会い、それが京都在住のガラス作家の荒川尚也さんという方の「ヨーグルトカップ」と名付けられたものと知りました。その時、何気なく手にした「ディップタンブラー」の、手にずっしりとおさまる心地よい持ち具合にも魅了され、荒川さんの器をいつかSuiにも展示したいと願っていました。

ギャラリーのオーナーが荒川さんに紹介してくださるという声にも後押しされ、今回の入荷が実現し、本日より器コーナーに展示しています。

タンブラー、ワイングラス、ピッチャー、花器、皿・・・など、どの器にも、透明ガラスの中に独特のアワが施され、涼し気な動きが感じられるのが大きな特徴です。

宙吹き技法で作られていますので、全く同じ形のものはなく、一つ一つの品に、それぞれの個性や味わいがもたらされているのも魅力です。

どの器にも、それなりの厚みがあって危気なく手にすることができます。その心地よい持ち重りがする品々を、是非手にとってご覧ください。

暑さが本番に向かう折り、ガラス器が皆様の食卓に涼しさを運んでくれることでしょう。(Y)

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2013.8.1

※ 宙吹き技法  ルツボからパイプに巻き取ったガラスに息を吹き込み、ガラス自体の動きと人の技によって成形するガラス器製作の方法。

25 7月

翠の窓vol.124 : Suiでサプライズ

 

フェアリーアイ  妖精の瞳

フェアリーアイ  妖精の瞳

若い娘さんがお店に入って来るなり、

「これを、ケーキに飾ってもらえませんか。」

と、小さなろうそくをいくつか差し出されました。

ピンクの「3」が2つ、ケーキや人形を型取ったバースディケーキ用のものが4つ。

今用意できるのはロールケーキだけですがと伝えると、それでお願いしますと言いおいて、外に友人(彼)を呼びに行かれました。

ロールケーキ1本を、白い大皿に置いて、にわかにバースディケーキ作りとなりました。「3」「3」を真ん中に、両側に小物のろうそくを立てると、バースディケーキらしくなりました。庭からローズマリーを2枝、ミントを5~6枝採ってきて大皿の縁に沿って配すると、にわか作りとは思えないバースディケーキプレートが出来上がりました。この間5分。

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ご注文のお茶の後に、このケーキをテーブルに運ぶと、このサプライズに、お祝いされる彼の顔が、それはうれしそうにほころびました。

Suiの小さなワンテーブルが二人きりのバースディプレイスになりました。

ろうそくの火を吹き消した時、私たちも一緒に「おめでとう」と拍手でお祝いして、ツーショットを数カット写し、すぐに写真にして差し上げると、このサプライズを企画した娘さんの方が感激して涙を流していました。

さて、33歳のこのささやかなバースディを、彼はどのように記憶にとどめるのでしょうか。

幸せな歩みの、大きな一歩となりますように・・・。    (Y)

2013.7.25

05 7月

翠の窓vol.123 : 夏の花を飾る

 

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やっと梅雨らしい雨が降り続いています。

土に、草木花に、作物に、たっぷり注がれた正に慈雨、空気までもが洗われて、何と清々しいことでしょう。

朝一番に、色鮮やかになってきたアジサイを切って、窓辺のアイアンツリーに入れるのは、この時期の楽しみです。アイアンツリーに目を留めてくださるお客様が多いので、季節の花を欠かしません。

たくさんの株がそれぞれに大きく育ってきたラベンダーも、小さな花が開き始め、薄紫の花束のようになって咲いています。

一束切って、それは荒川尚也さんの楕円の花器に並べるように挿してみます。花器にはめずらしいこの楕円の形が花の立ち姿をおもしろく見せてくれるので、とても重宝しています。

いろいろなミントをはじめ、チャイブやセージ、ローズマリー、カモミールなどのハーブ類を飾るのもこの時期ならでは。

今年は背の高いキャンドルグラスにこんもりと生けて「初夏のハーブキャンドル」と悦に入っていたら、このキャンドルグラスが欲しいというお客様が何人もいて取り寄せたりしました。

店内に飾る花は、そのほとんどはいつも庭にあるもの、容器や飾り方を工夫しながら、花を絶やさないようにするのは私自身の楽しみでもあります。

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今朝も花を切り、水をかえていたら、あっという間に1時間が経ってしまいました。

こうしてお客様を迎える心の準備も整っていくようです。 (Y)

2013.7.5

13 6月

翠の窓vol.122 : 『 7 ROSES 』

 

戸井三千男さんのジャズ木版画をご覧いただきましたか。

昨年に続き、今回も16作品を「グリーン ベイ」太田宏コレクションよりお借りしました。

6月13日 午前7時半 撮

6月13日 午前7時半 撮

その中の1枚『 7 ROSES』が、色・構成などが特におしゃれで目を引かれる作品でしたので、ダイレクトメールをこの作品で作ってみましたら、

「とっても素敵だったので、額に入れて飾っています。」

とのお声をいくつかいただきました。

画面の花瓶に5本のバラ・額の中の女性の手に1本、で6本? ほかに花びらが2枚散っているけれど。7ROSESというのだからこの女性自身がバラ・・・としたら!!

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と我ながらなかなかの思いつきと嬉しくなりましたが、だとしたら戸井さんの発想の妙というべきでしょう。真相やいかに?

ところで、『 7 ROSES』というジャズナンバーがあるのでしょうか。他の作品にも、それぞれにおしゃれなエスプリが隠されているのかもしれません。ジャズに疎いのが残念です。

(Y)

2013.6.13

28 5月

翠の窓vol.121 : 孟宗筍がいっぱい

 

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先日、開店前に買い物に出かけてもどると、玄関に孟宗が7本も入った大きな包みが置かれていました。旬の孟宗、近隣のどなたかが朝採りしたものを届けてくださったようです。

都会に暮らしていた頃は、筍への関心は薄く、筍料理をすることは稀でしたが、遊佐暮らしになって、この時期になると毎年次々に届けてくださる方々がいて、連日の食卓に孟宗ののらない日はありません。それでも食べ切れず、せっかくの旬のご馳走素材なので、遠方の友人知人に新鮮なうちにおすそ分けして大喜びされています。

今年は、5月の初めに近くのIさんが初物を届けてくださったのですが、立派な孟宗に加えて、酒粕・厚揚げ・あおさ・椎茸に豚肉まで添えた孟宗汁一式という親切ないただきものでした。本当にありがたいことです。

筍料理と言っても筍ご飯やわかめとの炊き合わせ位しか思いつかないような具合でしたから、孟宗汁は、こちらに来て初めて知った食べ方でした。初めて孟宗汁なるもの教えてもらって作ってみたときは、こんな食べ方もあるのかといった程度の印象でしたが、3年目となる頃には、まずは孟宗汁を食べたいと思っている自分に驚いたものです。

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その土地の食材を、土地の方々は、一番おいしい食べ方で食べているのですね。

今朝は散歩の途中で、孟宗を採っている方に出会い、持っていってと3本もいただいて帰りました。道々、さて今日はどんな風にしようかと考えて、焼き筍にしてみようかと思いつきました。もちろん孟宗汁は欠かせません。

今夜も孟宗づくしの食卓

になりそうです。  (Y)

2013・5・28

26 5月

翠の窓vol.120 : 初夏

 

「カッコー ・ カッコー ・ カッコー・・・」

と七声! 「あっ、カッコー」と思う間もなく、

「カッコー、カッコー、カッコー・・・」

と、今度は八声。

突然聞こえてきた声は裏の林の少し奥で鳴いているようで、こんなに大きくはっきりと聞こえたカッコーの声は初めてです。毎年心待ちにしているカッコーの声は、初夏を告げる声です。

クマガイソウ

クマガイソウ

目の前の水田の早苗は、日に日に若緑色を広げ、畦の緑もこんもり、春紅葉に淡くかすんでいた林の木々も緑を濃くし、雪を残す鳥海山の裾野からは、これも日に日に緑が這い上がっていっています。もう目の前は全面、緑・緑・緑のグラデーション、思わず見とれる美しさです。

「ここの景色は、いつが一番いいですか。」

とは、よく問われることですが、この時季の緑の美しさは本当に見事です。

昨日から今日へ、今日から明日へ、緑の様は刻々と変化しつつ、緑の饗宴真っ盛り。

Suiの窓から緑に染まそうな初夏の訪れを存分にお楽しみください。(Y)

2013・5・26

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01 5月

翠の窓vol.119 : 水田賛歌

 

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今年も土門さんの田んぼに、いち早く水がはられました。

水が入ってくるや否や、どこからともなく鳥が集まってきます。その数、数十羽、大半は毎年やってくるツグミ。セグロセキレイも独特の動きをしながら、しきりに餌をついばんでいます。

田の土がおこされ、様々な虫が出てきているのでしょう。しかし、鳥たちは、どうやってそれを素早く察知できるのでしょうか?

水が十分に入り、田の一面が水で満たされたとたん、これまた待ってましたとばかりにウミネコが集団でやってくるのも不思議でしかたがありません。

ともあれ、つかの間の休息から目覚めた田が、文字通り「水田」となって息を吹き返し、生きもの達が躍動する季節に、今年もめぐり合えました。

風のない日、鏡のように静かな水面は雪を残す鳥海山を逆さに映し、それは美しい眺めになりますが、実は夜もまた美しいものを見せてくれます。

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山すそに近い集落の明かりがいくつか見えるだけの暗闇の中、その明かりが、その数だけ水面に映り静かに揺らめいているのです。それはそれは、幻想的で息をのむ美しさです。

今年も農家の方に支えられ、繰り広げられる自然の豊かな営み、その姿に立ちあえる幸せに心から感謝する日々です。        (Y)

2013.5.1

26 4月

翠の窓vol.118 : Sui 5年目に

 

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「この店は、いつからやっているんですか。」

と聞かれることが度々ありますが、4年前からとお伝えすると、何で知らなかったんだろうと不思議そうにされる方が少なくありません。

また、未だに、行き方が分からないと途中から電話をくださる方も毎日のようにいらっしゃいます。昨日も、

「郵便配達の人に聞いて、近くまで後をついてきてやっとわかった。」

と、来店してくださった方がいらっしゃいました。

一日のお客様を見ていると、リピーターの方よりも、こんな店があるらしいと人伝に聞いたり、ブログを見たりして、初めて来店してくださる方のほうが多いように感じられるこの頃です。

Suiは、お蔭様で4周年を迎えました。

お客様の口コミで広めていただいて、この4年間に延べ2万人近くの方々にご利用いただいたようです。

この間、Suiの目の前の鳥海山と田園は、四季折々の姿を変えつつも微動だにしない自然の雄々しさを伝え続けてくれました。

春から夏へ、秋へ、冬へ・・・5年目も、Suiの窓からは、刻々と雄大な自然の姿を眺めていただけることでしょう。

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(Y)

2013.4.26

Suiを訪れ、Suiを案内し、Suiを伝えてくださった多くの皆様に、心から感謝申し上げます。5年目もよろしくお願い申し上げます。

15 4月

翠の窓vol.117 : 母の日に

 

枕元に差し込む朝日の何とまぶしいことでしょう。

鳥海山は朝もやに霞み、若草におおわれ始めた畦道にはたっぷりの朝露が降りて、今日一日の晴天が約束されているようです。

昨日「器を見せてください。」と来店されたお客様がいらっしゃいました。幸い先客はお一人だけの時でしたので、ゆっくり器を見ていただくことができました。

オンシジューム

オンシジューム

皿、カップ、グラス・・・とあれこれ手にとってじっくり吟味されているようでしたが、

「これにします。プレゼント用にしてください。」

と差し出されたのは、市中屋さんの朱塗りの角皿です。これは素敵な品を選ばれたと思っていると、

「大分予算オーバーだけど、自分用に欲しかったものはこの次にすることにして。」

と、気に入ったものを選んで満足されているよう、どうやら母の日のお祝いのプレゼントのようです。

この角皿は私にとって思い出深い物、数十年前に初めて自分で買った塗り物でした。塗り物と言えば類型通りの物が多い中、シンプルで他には見ないモダンなデザインに一目ぼれしてエイッと勢いで求め、塗り物に魅せられるようになったきっかけになった一品です。

数年前までは、自分が器店を始めることも、まして市中屋さんの塗り物を扱えるようになることなど思いもしていなかったのですから、今あることが夢のようです。

さて、母の日に、娘さんからのお祝いの市中屋さんの朱塗り角皿を手にとったお母様はどんな顔をされるのかしら・・・。

私の夢のおすそ分けができるようでうれしいです。    (Y)

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2013.4.15

26 3月

翠の窓vol.116 : 川瀬敏郎『一日一花』

 

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その本は、いつも行っている書店の見慣れた棚に、表紙をこちらに向けて置かれていました。川瀬敏郎の名と書名に引かれて何気なく手にすると、厚さ2センチ以上もあるその本はずっしりとした手応えです。

何気なく開いたページの右と左にそれぞれ一輪の山野草。茶色を含んだグレーの壁を背にシンプルに生けられた草花の端正な美しさに、思いがけず胸をつかれました。他のページをめくると、そこにも同様のシチュエーションで、右と左に一輪ずつの草花が配置されています。それぞれに日付がついていて、なるほど1年366日分の草花が載っていることがわかりました。

これは相当に見応えのあるものだという直観と、川瀬敏郎さんに間違いはないという思いで、迷わず買って帰りました。私より草花好きの家人の方が喜びそうだと思った通り、さっそくこの花この草とページをめくり虜になっているようです。

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しばらくしてあとがきを読み、この『一日一花』が、東日本大震災直後は花を手にすることができずにいた川瀬さんが、被災地で花をながめる人々の無心の笑顔にふれて「生者死者にかかわらず毎日だれかのために、この国のたましいの記憶である草木花をたてまつり、届けたいと願って」始められたものだということを知りました。また、川瀬さんは『一日一花』を花による曼荼羅と思い描き、あらゆる花を手向けたいとの心願があったと書いています。

書店で何気なくページを開いたときに感じたしんとしたたたずまいは、川瀬さんのこんな思いを如実に伝えてくれていたのでしょう。

それにしても、一つ一つの草花の姿・形・色の何と美しいことでしょうか、何と豊かなことでしょうか。このような山野草の多くを身近に見られる里山暮らしの豊かさにもあらためて気づかされます。

(Y)

2013・3・26