翠の窓vol.49 : 「いい時間にいらっしゃいました」
4時半をまわり日が傾きはじめ、そろそろ閉店にしようかと思ったところへお客様が来られました。
「いい時間にいらっしゃいました。」
と声をかけると、お客様の方はきょとんとしておられます。
日中鳥海山の頂上付近にただよっていた雲がいつの間にか消えて、少し赤らんだ鳥海山がすっきりした姿を見せています。この後鳥海山が夕日の光を受け刻々と色を変えて夕闇に向かう様は、いつものことながらつい見惚れてしまいます。
この時間帯に来店される方は少なく私達のみで見ていることが多いので、たまたま来店された方には、つい先の言葉をかけてしまうことになります。
日本海に沈む夕日をここから見ることはできませんが、鳥海山が赤く染まっていく様を見ていると、夕日の沈みようも同時に見ているような気分になります。赤くなったなと思う間もなく山襞の影が次第に濃くなり葡萄色に変わってくると、夕闇も濃くなって鳥海山全体のシルエットが影絵のようになってきます。
ティールームの明かりを落とすと、ティールームの中に夕闇に包まれます。
声もなく見惚れていたお客様も、ふうっと溜め息をつかれ、いつもと違う鳥海山の姿を堪能してくださるようです。
そうして2時間ほどもゆったりとされていく方が近頃はちらほら出てきました。私共は特別の用事がない限りティールームを開けていますので、この時間をねらってゆっくりした時間を過ごしにお出かけになりませんか。
「いい時間にいらっしゃいました。」とお迎えいたします。
(Y)
2010.10.21